「聖夜に、あなたへの温もりを」

 

 聖夜の鎌倉の街を、敦盛と望美は緩やかな足取りで歩いていた。

 賑わう若宮大路と対照的に、こちらは家が建ち並んでいて静かだ。

 「綺麗でしたね、あの灯り」

 「そうだな。あなたと共に見る事が出来て、私も嬉しい」

 答える彼も微笑んでいる。二人は先程まで、とある家で飾られていたクリスマスの灯りを眺めていた。

 彼らの背丈を優に越えるツリーにぶら下げられた、球状をした色とりどりのオーナメント。

 ベランダと揃いの灯りは暖かく、サンタやトナカイも加わって、冷たい夜を照らしていた。

 煌めくような眩さはない。それでも、小さな兄弟が作った温もりがあった。

 

 ふと、敦盛は望美の横顔を見つめていた。

 ――あの灯りは、怨霊の自分がすでになくした遠いものだと思った。

 あの兄弟と自分を重ねていたのかもしれない。まだ生きていた頃の、懐かしい日々を。

 けして、戻る事はないけれど――

 もう、胸の中に空虚さは感じない。それは、望美が側にいるから。

 怨霊の姿を知っても、優しくしてくれた望美。彼女がくれた、温かな時間。

 自分はただ、温もりを与えられるだけなのか。

 

 「どうしたんですか?」

 望美が立ち止まり首を傾げた。いつの間にか、歩みを止めていたらしい。

 「ああ……すまない。神子、寒くはないだろうか」

 真冬の空気は冷たく凍て付くようだ。自分は黄緑色のマフラーを巻いて、厚手のコートを羽織っているが、
それでも肌寒さが伝わってくる。

 「私は大丈夫ですよ」

 そう言った彼女の細い肩が、かすかに震えていたから。

 敦盛は包みこむように、そっとコートを望美に掛けた。

 「あ……」

 「だが、ずいぶん長居をさせてしまった。これを羽織っているといい」

 望美は目を伏せ、申し訳なさそうに下を向いて。

 「それじゃ、敦盛さんが寒いと思います」

 「気にしないでくれ。あなたの温もりだけで、私は十分だから」

 驚いたように顔を上げる彼女。消え入りそうな声で呟いた。

 「私、何もしてません」

 「神子が気付かないだけだろう。あなたの優しさに、どれだけ私が満たされてきたか」

 穢れた身でも、出来る事があるのなら。

 「あなたに与えられるばかりでなく、少しでも返したいのだ。浅ましいだろうか」

 「そんな事ないです。ありがとう……」

 望美は微笑んで、コートに袖を通した。そっと抱き寄せた彼のコートは、温かい。


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