「Rainy a bride」



 敦盛が図書館を出た時、外は雨が降り出していた。隣では望美が、憂うつな面持ちで空を仰いでいる。

 「望美?」

 望美は振り向くと、ばつが悪そうに答えた。

 「傘持ってくるの忘れてて」

 敦盛が鞄から水色の折りたたみ傘を取り出す。花が咲くかのように、傘が開いた。

 「望美、こちらに入るといい。濡れては体に障る」

 「はい」

 望美は微笑んで、敦盛の元へ歩き出した。



 二人は若宮大路をゆっくりと歩いていた。傘を敦盛が持ち、望美と寄り添うようにして。

 賑わう街の中で、雨音が心地よい。

 傘を持つ手に、望美が手を添える。優しい温もりが触れ合った。

 その時、すぐ側に建つ教会から、荘厳な鐘の音が響いた。二人は足を止め、教会へ視線を向ける。

 「望美、今の音は……」

 「たぶん、結婚式だと思います」

 雨の為、ここからでは見えない。おそらくは中で式が行われているのだろう。

 望美は考えこんでいたようだったが、納得した風に頷いた。

 「六月はジューンブライドがあるから、結婚式が多いのかな。おとといも、ここで式を挙げてるのを
見ましたし」

 「じゅーん、ぶらいど?」

 望美の世界に残ってからずいぶん経つが、耳慣れぬ言葉がまだ多い。

 「六月に結婚した女の人は幸せになるっていう、遠い国の話があるんです」

 「祝言か」

 頬が熱くなるのが、自分でもわかった。



 そういえば、望美と共に茶吉尼天に喰われた心を取り戻した伯父――清盛に、望美の世界に残って
間もない頃、言われた事があった。

 “そなたらは、祝言を挙げぬのか?”

 “伯父上、私は……”

 “照れずともよい。白龍の神子と共に幸せになると、決めたのだろう”

 “案ずるな、我は滅せぬよ。そなたら二人を見守っている”

 伯父は、誇らしげに笑っていた。



 教会の隣。小さな店のショーウインドウに、絹で出来た美しい純白のウェディングドレスが
飾られていた。それを着たマネキンの頭には銀製のティアラが乗せられ、白いヴェールを被せられている。

 この装束は、婚礼の宴で花嫁が着ると聞いた事がある。望美はそれを見ていた。

 「望美、あなたと祝言を挙げた未来でも……側にいたい」

 生き人と同じ幸いでなくとも――共に「生きて」いけるなら。

 願わくば望美の側にいるのは、自分でありたい。

 「焦らなくても、いいと思います」

 優しい目で、望美が自分を見つめていた。

 「えっ?」

 「結婚だけじゃなくて、敦盛さんと一緒にたくさん幸せを作りたいんです。だから結婚するのは……
もうちょっと待っててもらえますか」

 ――そうだ。歩く程の速さで緩やかに、自分達は「生きて」いるのだから。

 「ああ」

 そっと望美の唇へ、敦盛は唇を重ねた。それは未来への、約束の証。


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