「眠れぬ夜には、優しい愛を」

 

 部屋の褥に、望美は仰向けのまま身を横たえていた。深紫の髪を、傍らに座る敦盛がそっと手で梳く。

 望美は目を閉じようとしない。視線を持ち上げ、ただ自分を見つめている。

 「眠らないのか?」

 寂しげに望美は目を伏せ、衣の袖をつかんできた。

 「眠るまでの間が、少しだけ恐いんです。もし迷惑じゃなかったら、一緒にいてくれませんか」

 「わかった」

 安堵したかのように表情を和らげる望美。敦盛は望美の手に、自分の左手を重ねた。

 「望美、私が熊野本宮の神域に拒まれた時の事を覚えているだろうか」

 ややあって、敦盛がささやいた。

 「あの時も、それからも、あなたは私の手を握っていてくれた」

 もう、手の平に宝玉はないけれど。

 「私も、眠るのを恐れていた事があった。だが、こうして手を握っていれば、大丈夫だ」

 重ねた手に、少しだけ力を込める。望美も手を握り返してきた。

 「そうですね。敦盛さんの手、温かい」

 神子と八葉でなくなっても、自分達は繋がっている。それが、敦盛には幸せだった。

 「敦盛さん……」

 柔らかな声が、敦盛を呼んだ。

 

 「消えないで、側にいてくれますか」

 

 望美が言葉を紡ぎ終えるより先に、顔を近付けて。

 敦盛は、自分の唇を重ねた。

 “この身が在る限り、ずっと”

 言葉でなく、触れる温もりを通して、それを伝える。

 そっと唇を遠ざけた後、望美が目を閉じる、その目から、小さな雫がこぼれ落ちた。

 闇の中で眠る望美の、護りとなるように。

 敦盛は望美の手を握ったまま、涙に唇で触れた。


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