「存在――繋がりの証――」

 

 弥山の北麓に位置する紅葉谷。

 一面に広がるすすき野原に、眩い夕陽が射していた。

 黄金色に輝く凪の海を想起させる、野原の中央。そこに、敦盛は佇んでいた。時折頬を撫でる
冷たい風に、身を委ねて。

 ――八葉でなくなった今、どこへ行けばよいのだろう。

 わからない。この身が風に溶けてゆくのか、それさえも。

 

 そういえば、かつて熊野で白龍は言っていた。神子と八葉は、引き合うのが理だと。

 八葉として過ごした日々は、もう過ぎた。宝玉のないこの身は、龍脈に還るべきだ。

 そうだと、知っているけれど。

 消えたくないと願う自分が、ここにいる。

 紅葉の葉が、風に吹かれて踊る。さながら、花が舞い散るかのように。

 隣にはいない望美が、笑い掛けたような気がした。

 胸の奥が痛い。望美を傷付けたくなくて、ここまで来たのに。

 望美との絆を繋ぐものが、神子と八葉という繋がりしかないならば、役目を終えた自分は
とうの昔に消えているはずだ。

 今なお、自分が在り続けるのは。

 ――この穢れた身を愛してくれた望美が、現世にいるから。

 「望美……」

 名を呼ぶ敦盛の声が、むせび泣くような風に吸い込まれてゆく。

 本当は、想いを告げたかった。望美の事が愛しいと。この身が在る限り、側にいたいと。

 ずっと封じていた想いが、堰を切ったようにあふれ出す。

 胸が熱いと気付いた時には――涙が一筋、頬を伝い流れ落ちていた。

 

 「敦盛さん」

 風が、凪いだ。それと同時に、澄んだ可憐な声が響く。

 

 敦盛が振り返ると、望美がゆっくりと自分の方へ歩いて来るのが見えた。

 ややあって、歩みが目の前で止まる。

 「神子……なぜここに」

 厳島神社で、来てはならないと言ったはずだった。それなのに、どうして。

 「敦盛さんに、もう一度逢いたかったからです」

 「……すまなかった」

 ――今ならば、伝えられる。絆はまだ、途絶えていないのだから。

 「私はもはや、ただの怨霊に過ぎない。それでも、神子の側にいたいと願っていた。あなたと
離れてからも」

 望美は頷き、ふわりと微笑んだ。

 「それでも、いいんです。私は……今ここにいてくれる敦盛さんが、大好きです」

 永く、互いに見つめ合った後――

 敦盛は望美の肩に両手を伸ばし、そっと胸に引き寄せた。

 「望美」

 初めてだった。望美の前で、名を呼んだのは。

 「あなたが愛しい想いが、ずっと消えなかった。消したくなかったんだ。あなたを、忘れたくないから」

 「……私もです」

 胸に顔を埋めたまま答える望美を、包み込むように優しく抱きしめた。


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