「月下の舞」

 

 雲一つない夜空から、紗を掛けたかの如く美しい月明かりが射し込んで来る。

 真円を想起させる満月。その光は、夜を優しく照らす。

 敦盛は部屋から縁側に出て、それを眺めていた。

 暗闇の底に在った自分を、浄化の力を振るわずとも救ってくれた望美――満月を見ると、
望美の事が思い浮かぶ。

 傍らに座る望美の横顔は、月明かりに照らされて天女のように見えた。

 「あの、敦盛さん」

 ややあって、望美がじっとこちらを見つめてきた。

 「舞を舞ってもいいですか」

 「わかった。私も笛を奏でよう」

 唇に笑みを浮かべ、望美が答える。

 「お願いします」

 望美は庭へ降り、敦盛に向き直った。扇を出して開くのに合わせ、敦盛も笛を構える。

 

 扇を優雅な動きで流し、望美が舞う。

 月明かりの中でもなお眩しく、清らかな舞。

 それと合わさり、澄んだ音色が響く。まるで互いの想いを重ねるかのように。

 

 敦盛は笛を奏でる指を動かしながら、心が震えるのを感じていた。

 こうして楽を合わせる度に、望美の舞に惹かれてゆく。

 音色を紡ぐ度に、愛しさがあふれ出す。

 今はこのまま、奏でていたい。想いを音色に込めて、望美の元へ。

 

 望美が舞い終わり、敦盛に向けて一礼する。

 敦盛が笛をしまうと、望美は自分の隣に腰を下ろした。

 「ありがとうございました」

 「ああ。美しい舞だった」

 微笑んだ自分に、望美は頬を染め、はにかんだように答えた。

 「嬉しいです。敦盛さんが見ててくれたから」

 胸に頬を寄せる望美の髪を、そっと手で梳く。

 「私は、奏でたかったんだ。望美の為に」

 怨霊の身である事を忘れてしまいそうになる程に、幸せな時だったから。

 望美が顔を上げ、こちらを見つめる。鏡に映したような月明かりの下、
こぼれた吐息が触れ合って――

 敦盛は望美の唇に、自分の唇を重ねた。

 「ん……」

 触れた部分から、柔らかな温もりが伝わって来る。

 ――この穢れた身でも、想いを通わせることが出来る。それを許してくれたのは、あなただ。

 胸の奥で、鼓動が脈打つ。そう感じた一瞬の後、敦盛は唇を離した。

 「さっきの笛、とても優しかった。敦盛さんの為に舞えたなら、それで十分です」

 望美は衣の袖を掴んで、胸に顔を埋めた。その頬を両手で包み、そっと持ち上げて。

 互いの唇が、重なった。満月の光に照らされながら。


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