「まどろみの中の悪戯」



 望美さんを起こしに彼女の部屋へ行く途中、僕の足取りは自然と軽くなる。

 ただ後ろで、ヒノエと譲君の刺すような視線を感じましたが。

 ……ふふっ、気付かないふりをしておきましょう。



 さて、かわいい君の寝顔をもっと見ていたいけど、そろそろ起きてもらわなければいけないな。

 「望美さん、朝ですよ。起きて下さい」

 重そうにまぶたを開ける君。

 「うーん……」

 寝返りを打ったかと思うと、再び眠りに落ちてしまった。まだ寝るつもりですか、いけない人ですね。



 頭巾の襟元に手をやり、望美さんを眠りから連れ戻す方法を思案する。悪戯を考える時のように。



 君の髪を撫で、白い頬を指でそっとつついてみる。

 (もう少し寝かせてあげたいけど、今はだめですよ。望美さん)

 弾んだ鞠のような、柔らかさが伝わった。



 少しだけこうして戯れながら起きるのを待っていたけど、まだ目を覚まさない。

 (君もなかなか手強いですね……)

 懐から二寸程ある薄荷の葉を取り出し望美さんの鼻に当てると、擦る様にくすぐった。
空いた手は、温もりを感じられるよう頬にそっと触れる。

 「ふぇっ……」

 君のむず痒そうな声に心の中で謝りながらも、僕は手を止めなかった。

 小さな謀り事でも、つい楽しんでしまうから“策士”と言われるのかもしれないな。

 「ふぁうっ……べ、弁慶さん!?」

 望美さんが顔をこちらに向ける。戸惑ったように真っ赤になっていた。

 「ふふ、やっと起きてくれましたね。おはようございます」

 「何か、鼻がつんってするんですけど……」

 指先で鼻を押さえて、わずかに顔をしかめる姿も愛らしい。

 そんな望美さんに例の薄荷を示し、少しだけ種を明かす。

 「これですよ。薄荷は目覚め草とも呼ばれ、眠気覚ましにも使われますが……
そのままでは香気が少し強かったようですね」

 でも、あんなふうに使わないけど。そこはあえて黙っておきましょう。

 「そのままではって、もしかして……」

 軍師は策の全てを明かさないもの。聡明な君が気付く前に、さりげなく話題を変える。

 「今日は時間があるから、部屋を掃除するのもいいかもしれませんね。
望美さん、もしよかったら手伝ってくれませんか?」

 「わかりました。……一日で片付くかな、あの部屋」

 むしろ、君との時間を楽しみたいけれど。

 「出来るところまででいいんですよ。ゆっくり朝げを食べて来て下さいね」

 そう言い残し、望美さんの部屋を後にした。



 本当にいけない人だ。策の為ではない、自然な微笑みが口元に浮かんでいた。


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