「魂――救い――」

 

 そこは、漆黒の闇に満ちた場所だった。

 光が射さぬ、よどんだ時の中。冷たさも、温もりさえもない。

 敦盛はその場所に立ち、既視感を感じていた。蛍火のような光――魂が儚げに、
幾千にも漂う光景は。

 現世に蘇る前、黄泉の国で見たものと同じだ。

 あの時は、自分も輪廻を待つ魂の一つだった。

 けれど、今現世に在るこの身は願い続けている。消えたくないと。望美の側に在りたいと。

 幾千の魂を見上げ、敦盛は祈る。

 ――どうか、安らかであるように。龍脈の巡りに還らずにいる自分も、救われたのだから。

 

 昏い空間に、一筋の光が射した。それは徐々に広がり、敦盛を照らす。

 自分を優しく包むような、暖かい光。

 “敦盛さん”

 意識に、望美の柔らかな声が響く。

 “望美、私は……”

 救われたのは浄化の力ではなく、望美が愛してくれたから。

 “あなたが、愛しいんだ。誰よりも、ずっと”

 光の中で、望美が微笑んだ。

 

 柔らかな手が頬に触れ、目が覚めた。

 傍らで望美が褥から身を起こし、優しげに自分を見つめている。

 障子から後光のように射す月明かりより、その姿は美しかった。

 「あ……ごめんなさい、起こしちゃいましたね」

 望美の手の温もりが、確かに伝わって来たから。

 敦盛は褥から起き上がる。望美の肩を包むように、そっと抱きしめた。

 「今しばらく、このままいさせてくれ」

 頬を染め、望美が頷く。胸に顔を埋めたままで。

 夜着越しに、望美の鼓動を感じる。腕の中で息づく、温かな命。

 顔を上げた望美の唇に、自分の唇を重ねた後――

 「夢を、見ていた」

 「夢?」

 望美がきょとんとした風に、敦盛の言葉を反すうする。

 「あなたに救われる、優しい夢だった。あなたが本当に救いをもたらしてくれたから、
あのような夢を見たのだろう」

 小さく首を横に振って、望美は穏やかな口調で答えた。

 「そんなすごい事はしてません。ただ、私は敦盛さんと一緒に考えてただけです」

 望美の表情が、かすかにほころんだ。

 「消えなくても、敦盛さんに怨霊になる前よりもずっと、幸せになって欲しいって
思ったから。私に出来たのは、それだけです」

 想いを言葉に変えて微笑んだ望美の両の瞳から、小さな雫が頬を伝いこぼれ落ちていた。

 涙の跡を、唇でゆっくりと辿る。

 「敦盛、さん……」

 「それで充分だ。私は、あなたの側にいられるだけで幸せだから」

 微笑んだままの望美に、敦盛は顔を近付ける。

 ほのかに熱を帯びた唇が、重なった。

 互いに優しく、淡く――触れ合う。とても、温かい。

 口付けの後、敦盛はささやいた。

 「龍脈の巡りではなく、あなたと共に在りたい」

 望美の耳にそっと、唇を押し当てて。


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