「瞳に映る世界」

 

 灰褐色の空から、雪がふわりと舞い落ちる。

 家の庭で静かに佇んでいた望美の傍らで。敦盛は望美の肩を、そっと引き寄せた。

 白く染められた景色。望美の横顔が雪よりも美しく、鮮やかだったから。

 それは、いつからだったのだろう。

 ――瞳に映る色付いた世界。遠く、得られぬと思っていた場所に、あなたがいたのは。

 とうに怨霊の性に気付いていた望美。それでも自分に向けてくれる微笑みが、温もりが、
春の陽に包まれるかのように優しくて。

 ずっと、望美を見ていたい。側にいるのは償いの為だけでなく、自分の願いだから。

 肩に寄り掛かる望美の方へ、敦盛は顔を近付ける。

 こぼれた白い吐息が重なる。唇が、あと少しで触れ合うくらいの距離で。

 望美がきょとんとした風に、見つめ返してきた。

 「敦盛さん……?」

 「こうしてあなたを見つめているだけで、満たされる。望美を少しでも満たしたいと願うのは、
私だというのにな」

 望美の唇が、にこりと笑みの形をとった。幼子のように澄みきった、優しい笑顔。

 「だって、敦盛さんの居場所はここだから」

 胸の奥で、鼓動が跳ねるのがわかった。

 「私も、敦盛さんも、独りじゃないです」

 「ああ」

 心に沁みてゆく、望美の言葉に応えるように。敦盛はそっと、唇を重ねた。

 互いに触れた唇から、ほのかな熱が伝わって来る。

 ――たとえこの身が世界に溶ける日が、いつか来たとしても。

 望美の背中に手を回し、深く抱きしめて。

 ――穢れ無いあなたへの想いは、消えたりはしない。


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