「雪空の下、優しき願いを」

 

 庵の庭に、雪が降り積もる。それは、土に眠る者達への子守唄のように。

 天からの静かな調べを、敦盛は縁側に座り聞いていた。

 傍らに寄り添う望美の横顔へ視線を向ける。

 雪空を優しく見つめる、澄んだ瞳。けれど、かすかに哀しげな色を宿していた。

 小さな手の平に、そっと自分の手を添える。

 「敦盛さん……?」

 「こうしていれば、温かいから」

 冷えた望美の手を包む。少しでも、温もりが伝わるように。

 はにかむように微笑んだ望美に、敦盛は問い掛けた。

 「泣いていたのか?」

 「何で、そう思ったんですか」

 舞い落ちる雪に、先程の切なげな表情。それは、あの時と同じだった。

 「兄上を浄化した時と似ていた。だが、泣かないでくれ。失った痛みは……もう治まったから」

 望美が、重ねた手を押し頂くようにして握りしめる。

 「経正さんは私達を見守ってくれてますよね、きっと」

 浄化された怨霊は龍脈を巡る。それを知っていても、望美の声はかすかに震えていた。

 「そうだな。あなたは我ら二人を救ってくれた。だから望美には、笑っていて欲しいんだ」

 視線を合わせて、望美が儚げに笑う。

 「過去を返す事は私には出来ないけど、それでも願わずにはいられないんです。敦盛さんや
経正さんが、ずっと幸せになりますようにって」

 敦盛の手の甲に、柔らかな唇が触れる。祈るように、そっと。

 口付けの後、かすかに残る温もり。胸の奥から、愛しさがこみ上げて来る。

 「あの日々が戻らなくても、私は幸せだ。大切な、あなたの側にいられるから」

 ――兄上、どうか許しては下さいませんか。

 兄を討った時に伝えられなかった言葉。龍脈の巡りに在る経正の元へ届くようにと。

 

 『お前も神子殿も、本当に優しいね。この兄は、その気持ちだけで十分だ』

 雪風に交じり、懐かしい声が聞こえた。

 『二人共、もっと自分達の幸せを考えなさい』

 諭すようでいて、どこか穏やかな口調。重い枷が音を立てて外れていった。

 ――ありがとうございます。

 幸せは、人ならぬ身で望む事など出来ないと思っていたけれど。

 痛みや苦しみが溶けても自分がここにいるのは、望美が愛しいから。だからこそ。

 「望美、私は……願うばかりではなく、あなたとの幸せを守りたいんだ」

 望美が顔を上げ、優しく微笑む。幾重にも舞い散る雪の花のように、美しく。

 せめてこの想いだけは、溶けてしまわぬようにと願いながら。

 敦盛は望美の唇へ、自分の唇を重ねた。


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