「伝えたい心」

 

 桜の花が描かれた、薄紅色のポストカード。

 望美がアルファベットで書いた丁寧な字を、自室の机の前に座り、敦盛はゆっくりと目で追った。

 「ハッピー……バレンタイン、か」 

 望美から教わっているこの世界の言葉も、少しずつ読めるようになってきた。

 異国の言葉で、「ハッピー」が幸福を意味するのは聞いた事があるが。

 「望美、「バレンタイン」とはどのような意味なのだろうか」

 膝を崩した体勢で傍らに座っていた望美が、覗き込んで来る。頬が朱に染まっていた。

 「好きな人に贈り物をする日の事で、それは……今日なんです」

 「そうなのか」

 言葉に秘められた望美の想いに、頬が熱くなるのがわかった。

 一瞬の沈黙。望美が鞄から、桜色の包装紙でラッピングされたハート型の小さな箱を取り出した。

 「よかったら、もらってくれませんか」

 「ああ」

 視線に促され、包装紙を外す。

 箱の中身は、ハートを型取ったチョコレートが十二粒入っていた。

 敦盛はその一粒を指でつまみ、口に運んだ。ほのかに甘く、柔らかな口溶け。

 「ありがとう、望美」

 ただ、気がかりな事が一つ有る。今日が、想い人に贈り物をする日というのなら。

 「すまない、私は……今あなたに渡せる物がない」

 「すぐじゃなくてもいいんですよ。お返しをするのは来月ですし」

 望美が、片目をつむって優しく微笑んだ。

 「私は、その気持ちだけで嬉しいです」

 胸の奥から、温かなものが溢れる。形に出来なくても、枯れる事はなかった。

 敦盛は箱を机に置き、望美の頭をそっと胸に引き寄せる。

 「だが、待っていてくれ。私も、あなたに届けたい物があるから」

 「はい」

 抱きしめる腕に少しだけ力を込める。かすかに桜に似た、甘い香りがした。


 Back  Next  Home

inserted by FC2 system