「月の鎮まる夜に」

 

 夜の帳に、細く淡い月明かりが射しこんでくる。欠けた月が闇に溶ける間際の、
儚げな光。

 敦盛は庭にある小さな池のほとりに、静かに佇んでいた。

 胸の奥に灯る温もりを確かめるように、右手を押し当てて。

 今日は自分にとっても、幸いな日だから。

 「誕生日おめでとう、望美」

 傍らに立つ望美に伝わるように、そっと微笑んだ。

 「ありがとうございます」

 澄んだ碧色の瞳に、一心に見つめられる。鼓動が心地よく高鳴るのを感じた。

 「敦盛さん、お願いがあります。たぶん、わがままかもしれませんけど」

 吐息が触れる程の距離。桜色の唇が、言葉を紡いだ。

 「今日は、このまま一緒にいてくれませんか」

 「ああ」

 願わくば、二度と離れぬようにと。

 敦盛は羽織っていた紗の薄衣を両手で掲げる。望美をその中に優しく包み、
胸に引き寄せた。

 自分達をかすかに照らす、儚く美しい月明かり。それはまるで、闇の中に
溶けそうな我が身を、救ってくれた望美のように。

 「あなたという命とめぐり逢えて、よかった」

 望美の頬に唇を寄せ、ささやいた。

 愛しい望美の生誕――心に満ちる幸福を伝えたくて。そっと、口付けを落とす。

 「ん……」

 柔らかな温もりを感じた後、静かに唇を離した。

 「敦盛さんが消えないで側にいてくれるから、それだけで私は充分です」

 胸の内に、その言葉が深く広がってゆく。

 「私はここにいる。ずっと」

 しっとりと濡れた望美の唇に、敦盛は自分の唇を重ねる。

 優しい触れ方で、互いの呼吸が交わった。


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