「猫の目よりの観察記」

 

 僕の名前はスズ。平家一門の猫である。

 今は一門にいた頃からの友、敦盛と彼の想い人、望美が暮らす庵に世話になっている。

 敦盛が怨霊として蘇った事でその身に宿した穢れを、彼は僕と再会した後気に掛けていた。

 問題ない。わかっているぞ、心の友よ。

 敦盛が僕の友である事、腹を出して甘えられる信頼関係は何も変わらない。

 それは三食のかつお節よりも、大切なものだから。

 

 皐月。庭に涼しい風が吹いている。

 僕は敦盛と望美と共に、縁側へ出た。

 座る敦盛の膝上で腹を出して、仰向けに伸びをしながら。

 虎猫である僕が持つ、茶色と白が交ざった自慢の毛。それを敦盛が猫用の櫛で整える。

 繊細かつ、風に揺れる柳の如くしなやかな櫛裁き――また腕を上げたな、敦盛。

 一方、敦盛の隣に座る望美は、ほっそりとした白い指で、しきりに前足の柔らかい肉球に
触れていた。

 望美にも信頼を置いているからこそ、触れられる事は構わないが、くすぐったい。

 暖かな陽気と相まって、心地よすぎて眠ってしまいそうだ。

 濃い水色の小さな双眸を、ほんの少しだけ見開いて。

 これでよし、まだ寝ないぞ。

 「望美」

 僕の毛並みを整え終えた敦盛が、うっとりとした表情の望美へ、穏やかな視線を向ける。

 「あなたは、スズの肉球が好きなのか」

 「ぷにぷにしてて気持ちいいですから、つい猫の手を借りたくなっちゃって」

 微笑んで答える望美。ならば、このまま手を貸すとしよう。

 「そうか。望美の優しい手に触れられているから、スズも心地よいのだろう」

 確かに、敦盛の言う通りだ。望美といると、母上を想い出して安心する。

 ふと敦盛が、僕と望美が重ねている手に自分の手を添えた。

 「私も、望美の手を借りてもよいだろうか」

 「敦盛さんに貸す分は、ちゃんとありますよ」

 「ありがとう」

 僕と望美の手を、敦盛の手が優しく包む。温かいぞ、心の友よ。

 ――信頼し、想う相手に甘える事が出来るのは、僕だけでなく二人も同じだ。

 敦盛は望美の肩へ寄り掛かるようにして、ゆっくりと身を預けた。

 「すまない。少しだけ、あなたの温もりに触れさせてくれ」

 望美は微笑んで、そっと頬を寄せる。

 その睦まじい光景は、つがいの猫を思わせた。

 ふむ、今度二人にまたたびを勧めてみよう。僕は口元に、にやりと笑みを浮かべた。


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