「贈り物〜京・弁慶編〜」



 今日は薬屋を休みにして、望美と弁慶は川原へ薬草取りに出掛けた。

 弁慶の隣で薬草の目利きをする望美はどことなく楽しそうだ。

 薬師として学んだ知識が少しずつ身に付いているようだった。

 「じゃあ、一息入れましょうか」

 砂地に布を敷き、薬草が詰まった籠を横に置いて二人は腰を下ろす。

 川からの涼しい空気を運ぶ風が心地良い。深紫の長髪をほっそりした手で押さえて、望美は目を細めた。

 「君に、渡したい物があるんです」

 「えっ、何ですか?」

 穏やかな瞳で望美の横顔を見つめていた弁慶は、ごそごそと懐から袋を取り出した。

 中身は卵程の大きさで、布製の小さな玉が二つ。

 それらは大きさと形が互いに違い、色は桜色と深紫。形がややいびつだが手縫いで花びら模様が施されている。

 望美が手に取ると、ざらざらと音がした。それは彼女の世界で言うお手玉に似ていた。



 「弁慶さん、これってもしかして、お手玉ですか?」

 以前、薬屋に来る子供たちに京でも出来そうな自分の世界の遊びを教えた事が何度かあった。

 その中には小石で代用したお手玉遊びも含まれていて、弁慶が実物はどんな物か聞いたのだ。

 望美の問いに、弁慶は答えた。少しだけ悪戯っぽく笑って。

 「そうですよ。君の生誕を祝う贈り物には、ささやかすぎたかもしれませんが」

 「ええっ!?」

 思いもよらぬ言葉に驚く望美。

 確かに今日は自分の誕生日だが、出掛ける前弁慶は何も言わなかった。

 「おや、可愛い君が生まれた日を、僕が忘れてるとでも思ってたんですか?」

 「そんな事は、ないですけど」

 望美はぽつりと呟いた。

 「私、弁慶さんがいてくれるならそれでいいんです」

 「僕の気持ちは君に伝えた時と何も変わってませんよ。だから、もう二度と君を悲しませない。
信じて……くれますか?」

 「はい」

 望美の耳元で弁慶はそっとささやいた。

 「ありがとう……生誕おめでとうございます、望美さん」

 「弁慶、さん……」

 色付いた紅葉のように、望美は頬を染めた。



 息をついて落ち着きを取り戻した望美が、静かに口を開いた。

 「ありがとうございます、懐かしいな。小さい時スミレおばあちゃんに教えてもらって、一緒に遊んだっけ」

 望美は手にしたお手玉を軽く上に投げた。

 空いた手で落ちないように捕まえ、また投げる。その繰り返しに合わせて清廉な歌声が響く。

 「一番始めはいちはつの、二つは双葉」

 無垢な望美を見つめる弁慶の横顔は陽の光を受け、温かく優しい。

 「五つ……あっ……」

 歌が途切れ、お手玉が敷き布の外に落ちた。

 拾って渡す弁慶に望美はすいません、と照れくさそうに謝った。

 「私もまだまだですね。今度は子供達にも教えてあげたいです」

 「きっと喜びますよ。その時は僕も混ぜて欲しいな」

 童心に帰ったように弁慶は笑った。望美もつられて笑い返す。

 陽の光が二人の穏やかな時を見守るように、優しく照らしていた。


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