「Clover Romance」



 電車の規則正しく揺れる音が響く。

 望美は鞄を膝の上に置き、座席に座って景色を眺めていた。

 今日は敦盛の誕生日。プレゼントを渡すのが、望美には待ち遠しかった。



 極楽寺駅で降りて駅から外に出ると、敦盛が待っていた。

 彼は茶吉尼天との戦いが終わった後、仲間の後押しを受け自分で現代に残る事を選んだ。

 その後、たまにこうして人通りから離れた所で、望美が学校から帰って来るのを待っている事があった。

 小さく敦盛に手を振り、望美は彼のもとへと駆け出す。心なしか声もはずんでいた。

 「敦盛さん、ただいまー! 来てくれてありがと」

 「ああ……お帰り、望美。では帰ろう」

 二人並ぶと、緩やかな速さで歩き出す。

 途中、望美は何気なく話を切り出した。

 「今日敦盛さんの誕生日ですよね。おめでとうございます」

 敦盛は一瞬驚いた顔を見せたが、納得したように頷いた。

 「そうか。この世界では、生まれた日を祝うのだったな。ありがとう、望美」



 「渡したい物があるんですけど……受け取ってもらえますか?」

 望美は足を止めると、鞄から小さな四角い箱を取り出した。

 空色をした無地の包装紙と、十字にかけられた赤いリボンでラッピングが施されている。

 「これを、私に? 開けてもよいだろうか」

 「はい」

 敦盛は丁寧にリボンをほどき、包装紙を外す。

 中身は、五百円玉程の大きさで細く黒い革紐につながれた、透明な丸いガラス製のペンダントだった。

 「美しいな。……大事にする」

 嬉しそうに笑みを浮かべペンダントを身に着けると、望美は花がほころぶような笑顔を向けた。

 「よく似合ってますよ、敦盛さん」

 わずかにうつむき、敦盛は照れた表情を見せた。

 「望美……そ、そうか」



 中に埋め込まれている緑色の葉を不思議そうに見つめて、敦盛が尋ねた。

 「変わった形だな、四枚に分かれている。これは何というのだろう」

 「四つ葉のクローバーですね」

 耳慣れない言葉に、敦盛は小首を傾げた。

 「『くろーばー』か……。装飾品の意匠に使われるとは、珍しい葉なのか?」

 珍しいっていうのかな、と前置きしてから望美は答えた。

 「四つ葉のクローバーには言い伝えがあるんです」

 「それを見つけたら、幸せになれるって。咲いてるのじゃないけど……。
敦盛さん、私は幸せを作ることができてますか?」



 ふわり、と敦盛の両手が望美の頬に触れた。



 「あ……」

 「『生きて』いく事など、もう私にはできないと思っていた。だがあなたが側にいてくれるから、
私は幸せだ」

 ――これからもあなたと共に『生きて』いきたい。

 敦盛は言った。『存在』という言葉を使わずに。

 「うん……」

 夕日が二人の横顔を照らしていた。

 互いに両手を伸ばし、支えるように抱きしめる。

 瞬間二人の影が重なり、そっと望美はささやいた。

 ――私も幸せです、敦盛さん。

 敦盛は何も言わない。ただ、ほんの少しだけ腕に力を入れた。

 温もりを感じながら、つかの間望美は目を閉じた。


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