「雪色のさやけき祈り」

 

 凍て付いた夜の帳に、天からの子守唄を思わせる雪が静かに降り積もる。

 舞い踊る美しく清らかな六花を、部屋から障子越しに眺めていた敦盛は、
瞑目するように目を閉じた。

 ――こうして雪が降る日は、兄上を浄化した時の事を思い出す。あの時
感じた魂を抉られるような罪の痛み。胸の奥に刻まれた傷痕が温もりで
満たされているのは、望美が側にいて私を愛してくれたからだ。

 無垢で清らかな六花にも似て、けれど温かな人。

 敦盛はゆっくりと目を開ける。自分の膝を枕に眠る望美のつややかな髪を、
いとおしむように撫でた。

 膝を丸め、敦盛の左腕にしっかりとすがり付く姿は、ゆりかごで眠る赤子の
ようでいてどこか儚げだ。

 微熱を残す頬に指を這わせると――ぴくりと身を震わせる望美の手の中で、
小さな土鈴が優しい音を立てて鳴った。

 と、喉が震えか細く哀しげな吐息がこぼれる。閉じたままの瞳から、涙が
溢れ出していた。

 ――望美も、兄上を浄化した事を思い出しているのだろうか。

 そっと顔を近付けて、涙の雫を唇で吸い取る。

 「ん……」

 呻きにも似た声と共に、望美が薄く目を開けた。波立つ水面のように瞳を
潤ませながら、敦盛の腕にすがり付く手に強く強く力を込めてくる。

 優し過ぎる程に優しい望美が、敦盛が感じた罪の痛みさえも、自ら負って
傷付いていた事を知っているからこそ。

 「……大丈夫だ」

 涙の痕を拭うように、目の淵から頬を唇で辿りながらささやく。

 「疼いたその痛みは私が引き受けるから、何も言わなくていい」

 ふわりと腕の中に望美を包み込み、絹糸を思わせる髪に愛しげに
指を滑らせる。

 望美が桜色の唇を震わせて、言葉を紡いだ。

 「ごめんね。受け止めた、はずなのに――」

 言葉を紡ぎ終えるより先に。敦盛は自分の唇を重ね合わせていた。

 ――泣かないでくれ。愛しいあなたに笑っていて欲しいと、私がただ
祈るだけなのだから。

 この身に清浄なる力の源たる宝玉はすでにない。それでも、どうか
祈りが届くようにと。

 小刻みに震える唇から、甘い微熱が伝わってくる。雪が溶けるような
柔らかい触れ方で、吐息と唇を幾重にも重ねた。

 この穢れた身が背負う罪は何も変わらない。けれど望美が我が事の
ようにして感じた痛みは、雪が地に沁みて溶け春になるように――癒えて欲しい。

 ――兄上。罪深きこの身が願うのはあさましいと知っても、願わずには
いられないのです。

 雪風は黙して語らない。けれど奏でにも似た音を立て、敦盛を包むように
優しく吹いた。


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