「その腕、変わらぬ温もり」

 

 小春日和を思わせる柔らかな陽射しが、居間の窓から射し込んでくる。

 温かく全てを包むような陽だまりは、ずっと憧れていた望美に似ている。ソファに
座っていたリズヴァーンは、穏やかな笑みを浮かべ傍らに寄り添う望美のつややかな
髪を撫でた。絹糸のようにふわりとした感触が、とても心地よい。

 肩に寄り掛かるようにして、そっと身体を預けてきた望美の頭を胸に引き寄せて、
腕の中に抱いた。

 この上なく安らかな表情で胸に顔を埋めながら、望美がささやいてくる。

 「先生、もう独りじゃないですよ」

 「無論。お前と共にいるから」

 露よりも澄み切った優しい声。幼い自分を腕の中に包んでくれた懐かしい光景が、
ふと脳裏で重なった。

 揺り籠にも似て、温かく優しかったその腕の中。愛しい温もりを自分が伝え、
ずっと抱き締めていたかった。

 胸に頬をすり寄せていた望美が上を向いた拍子に、視線が交差する。微熱交じりの
吐息が触れ合うのを感じながら、リズヴァーンは問い掛けていた。

 「巡った運命の輪を去ってもなお、お前は私に孤独ではないと教えてくれる。その
理由を答えなさい」

 「答えられません」

 わざとはぐらかすように、望美は片目をつむってみせた。

 ――お前も、言うようになったな。

 胸の内で苦笑しながら、頬に唇を寄せささやいた。

 「だが知りたいのだ。答えなさい」

 深遠な笑みを浮かべ、桜色の唇が言葉を紡ぐ。

 「先生だって知ってるくせに。「忘れずにいて欲しかったから」じゃ答えには
なりませんか?」

 「問題ない」

 答えながら、唇をそっと重ね合わせる。

 ――忘れない。懐かしく愛しいお前の温もりは、ずっと側にあるのだから。


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