「天が包んだ涙の下で」

 

 天女の羽衣の欠片を思わせる雪が、さやかな微風を伴ってふわりと舞い落ちる。

 儚く、それでいて清らかに世界を白く染める光景を、敦盛は望美の部屋の窓越しに見つめていた。

 ――空の涙が天に包まれて、雪になるのだろうか。

 ふと、望美の世界に共に来る前のとある記憶が脳裏をよぎった。

 許されるなら消えたくないと希い流した涙を、望美が温かな手で受け止めてくれた時に
空がこぼした雪が似ていたから。

 隣で足を崩した格好でゆったりと座っていた望美の細い肩に両手を伸ばし、頭をそっと
胸の中に引き寄せた。

 「この穢れた身を孤独からすくい上げてくれてありがとう、望美」

 「うん。だって敦盛さんの側にいたかったんだもん」

 朱に染まった頬を胸に埋めていた望美が、こくりと頷いた。

 限りなく薄く引き伸ばされた時の中、雪風が歌うようにざわめく音が耳に響いていた。

 それを聴きながら、腕の中で温かく息づく望美の鼓動を感じていると、まるで世界に取り残されたようにさえ思える。
それでも構わなかった。愛しい人の温もりを、こんなにも近くでずっと抱き締めていられるのなら。

 「だからこそ、望美が孤独の淵で迷わぬように守りたいんだ。このままあなたを、
優しく包んでいたい」

 子猫を思わせる仕草で胸に頬をすり寄せて甘えて来る望美の髪に、背中に手を滑らせながら、
慈しむように包み込んでいた。

 互いに温かく柔らかく触れ合う、熱と鼓動を感じ取る。そうして自分が愛する人の隣で
存在している事を確かめたくて。

 ――私はまだ、この世界に溶けずに側にいるから。

 自分の唇を重ねて熱を分け与える。愛しむ想いそのままに、幾重にも。

 望美が応じるように、温もりを重ね合わせて来た。優しい時を感じながら、
敦盛はそっと目を閉じた。

 

 どれ程の間、そうしていただろうか。永遠にも似た時の中、敦盛は静かに目を開けた。
口付けた温もりの甘い感覚が、まだ唇に残っている。

 「望美。そういえば今日は「バレンタイン」という、愛しい人に贈り物をする日と聞いた。
受け取ってもらえるだろうか」

 吐息が触れるほどの距離でささやきかけると、望美が頬を紅くしたまま頷いた。

 肩と背中を覆うように絡めていた両腕を離した後。敦盛は机の上に置かれた茶色い箱に
手を伸ばし、薄紅色のリボンを外した。

 小さなハートを象ったチョコを一つ手に取り、望美の口元へ運ぶ。

 ややあって、しっとりと濡れた唇が甘えるように触れて来た。どこか餌を求める雛鳥を
思わせて、指先と胸の奥が熱くなる。

 「美味しい……ふふ、来月のホワイトデーは私が贈り物をする番ですね」

 「ああ」

 祝福するように歌う雪風の音色を聴きながら。耳元に微熱交じりの吐息を触れ合わせて、
優しくささやいた。


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