「眠りと目覚めの狭間で」

 

 まだ夜も明けきらぬ時刻。敦盛は部屋の褥に横たわりながら、淡いまどろみの中を
たゆたっていた。幾重もの真綿で優しく包むように、腕の中に望美を抱き締めて。

 揺り籠で眠る赤子のように、この上なく安らかな寝顔で自分の胸に顔を埋める
姿が愛しかった。つやのある髪を、繊細な手付きでそっと撫でる。

 優しい温もりを抱いているから、血を渇望する怨霊の発作の痛みは感じなかった。

 ――夢の中でも、あなたの清らかな祈りが伝わって来た。私は、何と幸福なのだろか。
この胸が、温かく疼く程に。

 胸の奥に宿る熱に、望美の髪と背中をさする手が甘く痺れそうな錯覚さえ覚える。けれど、
ただ優しい祈りを受け取るだけではなく、自分も温もりを伝えたかった。

 目を閉じたまま、手探りで望美の心臓がある辺りに敦盛はそっと手を押し当てた。

 薄くて硬い胸の内側から、安らかで穏やかな鼓動が伝わって来る。それは、命の律動を
宿す音色。

 ――望美が私の存在を支えてくれるのと同じだ。私も愛しいあなたの繊細な心が
壊れぬように、守りたい。

 「ん……」

 かすかに開いた桜色の唇から、淡い吐息がこぼれる。

 「敦盛さん……どうか、離れないで……」

 応える代わりに、微熱が残る頬を両手で包み込み唇を重ねた。

 柔らかな熱が、優しく触れ合う。もう少しだけ、目を開けずにこのままでいたい。

 ややあって、白み始めた薄紫色の空から射す光に敦盛はゆっくりと目を開けた。春が
近付いているからだろうか。どこからか、うぐいすのさえずりが聞こえて来る。

 「望美、暖かな朝だ。起きてくれ」

 耳たぶに唇を押し当ててささやきかける。望美が目を開けて、しっとりと微笑んだ。

 「おはようございます」


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