「祈り夜、鼓動溶け合うように」

 

 ――あなたの鼓動が、優しく伝わる。互いに溶け合える熱が、少しづつ高まってゆく。

 我が身を天衣のように包む、温かく清らかな気に敦盛は目を覚ました。

 この気は、褥で身を寄せて眠る望美が清浄な祈りで伝えてくれたもの。神子でなくなり、
妻になっても変わらぬ温もりが愛しかった。

 小さな手の平を自分の右手に重ねたまま、胸に頬を寄せる望美の額に温かく口付けた。

 「ん……」

 望美がぴくりと身を震わせながら、うっすらと目を開ける。

 「私、寝てた?」

 「ああ、いつもすまない望美。私はあなたを疲れさせてばかりいるな」

 無意識に望美の手の平を、少し強く握り締めていた。

 ――この穢れた身は、あなたに与えられてばかりだ。

 「大丈夫。疲れは感じてないから」

 望美は静かな表情で首を横に振り、胸に顔を埋めてきた。まとう白檀の落ち着いた
薫りが鼻先に伝わってくる。

 「敦盛さんの為に祈るのはむしろ幸、せ――」

 言葉を紡ぎ終える間際。零れた微熱をはらんだ吐息に、自分のそれと唇を柔らかく重ねた。
触れ合った甘い感触は、ほんの一瞬。それでもかすかに、望美の鼓動が早まるのがわかった。

 朱に染まった頬を見られまいとするかのように、望美がまた胸に顔を隠してきた。

 先刻よりも深く埋められた顔を向けて欲しくて。耳元に唇で触れてささやきかける。

 「だが私とて望美が安らげるよう、あなたを温もりで包んでいたいと願うと知っているだろう?」

 「わかってる」

 耳の下から首筋を唇でゆっくりと辿った後。小さく小さくはにかんだ望美のつややかに
濡れた唇に、そっと口付けを落とした。

 ――微笑んでその痛みを、隠してしまわないでくれ。望美の痛みも涙も、私が引き受けるから。

 かすかに指先が甘く痺れる感覚を覚えたが――薄い夜着越しに触れ合う鼓動は、調和して
とても穏やかだった。

 「温かい。もっと長く、触れていたいな」

 木の葉に落ちる雫を想起させる、儚げな声が耳に心地よく響く。

 「ああ」

 ――祈りながらこのまま望美と、温かく溶け合える気がした。

 空いた左腕で、望美の細い身体を優しく包み込む。その時望美が浮かべた微笑みは、
幼子のように無垢でいて清らかに澄んでいた。

 互いに重ねた手の平が、熱い。やがて、調和した鼓動が溶け合った頃に。

 胸の中で、望美が揺り籠で眠る赤子を思わせる仕草で、ゆっくりと寝息を立てる。それを
見届け、敦盛も静かに目を閉じた。

 ――夜が明けてもどうかずっと、あなたと共に。


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