「約束の先」

 

 ――限りある命の中、生を紡げる時の短さ。そんな事は、誰よりも自分が身をもって
知っている。だからこそ、愛する人との永遠に強く強く焦がれてしまうのだろう。

 

 霧雨が降り注ぐ、公園の東屋で。

 長椅子に腰掛けていたゆきが、寄り添う総司の肩に身を預けてくる。桜色の柔らかな
髪を愛しげに梳きながら、総司は静かな雨の奏でを聴いていた。

 ――雨でも悪くないと思えるのは、伝わるゆきさんの温もりが、とても心地良いからでしょうか。

 季節は水無月。白い梨の花が鮮やかに咲き誇る木の下でゆきと再会してから、
二ヶ月が経とうとしていた。

 「待てー!」

 ブランコの辺りで、雨などお構いなしに水たまりを楽しげに駆け回っていた二人の子供。
鬼ごっこに興じているのだろうか。

 ややあって、黒髪を肩まで伸ばした少女の方が、茶色い髪の勝気そうな少年に
追い付いて言った。

 「捕まえた。もう置いてっちゃやだよ」

 「何言ってんだ。俺がちゃんと捕まえてやるに決まってんだろ」

 少年が、拗ねた風な少女の髪をくしゃくしゃと撫で十を数え始める。

 満面の笑顔で走り出した少女。ふっとゆきがどこか寂しげな微笑を浮かべ、総司の
首筋に顔を埋めてきた。

 「ずっと一緒にいたいって思ってても、いつか私は総司さんを置いて行っちゃうのかな」

 ぽつりと呟かれた一言は、心の臓に太刀を突き立てられるよりも痛かった。

 先の戦で、自ら望んで命を削り続けたゆき。すでに削られた分の命、失われた彼女の
生きる時を逆巻かせる事が自分には出来なくても――

 両手を白い頬に押し当てて、そっと顔を持ち上げる。

 「ゆきさん。僕達の生を紡げる時は残り少ないけれど、永遠を望む事はけして矛盾
していません。僕達は生を繋いでいける」

 手の平で触れている頬が、微熱を宿しながらも震えていた。

 「ありがとう……心のどこかでは、怖かったのかもしれません。おかしいな、前に
総司さんに「私が命を削るのは、私自身が決めたわがままだ」って言ったのに」

 困ったように微笑いながらも、湖のように透き通った瞳から小さな雫が流れ落ちていて。

 目の淵の涙を唇で吸いながら、優しくささやく。

 「おかしくなんか、ありませんよ」

 ――たとえ僕達に最期の時が来ても、この魂は離れたりはしない。

 「それに、怖くもありません。僕の命はもうあなたに預けましたから。どんなにゆきさんが
上手く隠れても、僕が必ず探してみせます」

 白く柔らかな頬を伝って流れ続ける、きらきらと光る涙。その痕を幾重にも辿るようにして、
唇を這わせた。

 「――総司、さん。ちゃんと私を見つけて下さいね。どうか独りにしないで」

 濡れた唇に愛しげに口付けて、ゆきに答えた。

 触れ合う時は、かくれんぼで十を数えるよりも長く感じられた。もう少し、温もりに
触れていたい。

 唇を離して、ゆきの耳元に押し当てる。

 「生を繋ぐ約束も、ゆきさんとの永遠の願いも、僕には等しく愛しいんです。僕の感情を
焦がれるほど強く花開かせてくれたあなたに返す為に、祝言を望んでも良いでしょうか」

 清らかで何よりも澄み切った笑みを横顔に浮かべて、ゆきは応えてきた。

 波立つように、心が愛しさでさざめいていた。


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