「光の雨が消える前に」

 

 ――どうか、伝えさせて下さい。生まれてきて良かったと。

 

 透き通った漆黒の天上から、光の雨が止む事なく降り注いでいた。色とりどりの
宝石を散りばめたような、星の雫の驟雨。

 ゆきの部屋に繋がるバルコニーで。流星雨を眺めていた総司は、寄り添うゆきが
ふっと向けた笑顔に、愛しげな眼差しで応えた。

 「誕生日おめでとうございます、総司さん。何か欲しい物はないですか?」

 冴え冴えと輝く月を思わせる、美しき微笑。胸の深い場所ですでに花開いた愛しさに、
優しく水が沁み渡るような心地だ。

 「ありがとうございます。ふふっ、ゆきさんの命がこうして消えずにいてくれる。それだけで、
僕にとっては最高の贈り物です」

 ――それだけでいいんです。他には、何もいりません。

 細い肩を両腕で包み込む。ゆきが震えながら総司を抱き締め返し、胸に顔を押し当ててきた。

 「うん。私も総司さんも、ここにいますよね」

 確かめるかのように力強く、呟かれた言葉。ゆきの心音が脈打つのを感じながら、抱き締める
腕にぎゅっと力を込めた。

 涙を流すかのように、星の雫が一つ、また一つと流れ落ちてゆく。この光の雨が止む前に、
愛する人に伝えたい事があった。

 首筋に顔を埋めるゆきの、柔らかな耳に唇で触れて。

 「ゆきさん。僕は今、生まれてきて良かったと心から思っています。自分が生を受けたと
いう意味だけではなく、あなたが感情を教えてくれた事で心もまた生まれたのだから」

 「うん」

 ――胸の奥に咲く花のような、あなたを愛する想い。ただ感情を満たしてもらうばかりでなく――
ゆきさんにも、愛しさの一片をあげたいんです。

 ゆきが顔を上げたのと同時。つややかな唇に、総司は自分の唇を重ねる。流れ星に
願う時のように、三度。

 眩く煌めく星の雫は、やがては消えてゆく。自分はこの命で、生きてゆきの光になれるだろうか。

 「僕はあなたにとっての光でありたいんです。ゆきさんが迷わないよう、道を照らす灯火のような
温かい光に」

 儚くも強い星明りにも似た、愛しい人。この命は、ゆきの側に。

 「迷子にならないように、ずっと一緒に歩きましょう」

 応える代わりに、そっと唇を重ね合わせた。ゆきの白い両手を取り、互いに小指を絡ませて。


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