「星屑は闇に消え」

 

 透き通った漆黒の夜空を、白銀色の星屑が流れ落ちてゆく。

 「ずっと、敦盛さんとの幸せな時が続きますように」

 春日家の屋根の上。仰向けに寝そべったまま望美がささやいた言の葉を、秋風がさらって行った。

 「そうだな。この穢れた身の祈りが天に届くかは知れないが、「生きて」あなたと共にいたいと
交わした誓いが呼び起こされる」

 顔を近づけ、艶のある唇からこぼれた吐息を唇で拾う。

 「ん……」

 朱に染まった頬の熱が一瞬にして高まったのが、触れている掌越しに伝わってくる。

 清麗な満月の光に映し出されているからだろうか。無防備に手足を投げ出して横たわる姿が、
天女のそれよりも美しく思えるのは。

 唇を遠ざけた後、深い闇に消えた星屑を横目に捉えて。敦盛は翠玉の瞳を正面から覗き込み、
静かに語り掛ける。

 「この闇と変わり得ぬ存在の私でも……。望美という光と融け合えるのは、幸福だ」

 瞳の深奥に灯る、星の雫を思わせる煌めき。視線を委ねていると、目眩にも似た
感覚を覚える。だがそれは、甘美で愛しいものだった。

 わずかに伏せられた瞼の上に口付けを落とすと、望美がゆっくりと首を横に振る。

 「すまない、苦しかっただろうか」

 「ううん、心地よくてあったかい。苦しいとかじゃなくて、幸せな痛み」

 月明かりに照らされた抜けるように白い両手に、すっぽりと顔を包まれ引き寄せられた。

 「ただ……理から外れた闇だけじゃなくて、敦盛さん自身の綺麗な光だって
ちゃんとある。私が誰よりも知ってるって、言いたかったの」

 言葉を紡ぐ望美の双眸も、また自分のそれを見つめてくれていて。

 ややあって鼻先が触れ合い、熱を帯びた唇が重なった。

 微かに視界が、透明な雫色に滲んでいる。

 ――宝玉なき今も、望美がこの穢れた存在を受け止めてくれた手を離さずにいてくれるから。
私は、本当の命なき身でも「生きて」いたいと思えるんだ。

 永遠にも似た視線の交差。怨霊に転じる時とは真逆の、落ちてゆくような感覚に
身を任せていたい。

 唇を離して望美と同じ目線に身を横たえると、目の淵に柔らかな温もりが舞い降りた。

 「……大丈夫だ。望美と共にいる幸せを希う想いが、流させた涙だから」

 「そうであってくれて、よかった」

 微笑む望美の絹糸を思わせる髪に指を差し入れ、慈しむように梳る。

 「私は以前「どんなに辛くても、あなたとの記憶なら忘れたくない」と言った。刻まれた
愛しい記憶も、同じだ」

 ――離さない。あなたもこの想い出も、ずっと。

 頷いた望美の身体を、強く抱き締めて。天上に瞬く数多の星に抱かれながら、
敦盛は目を閉じた。


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