「淡雪のようにふわふわと」

 

 ――なぜだろう。今日はことさら、僕の感情が浮き立っているのがわかる。この雪に、
己を重ねられそうな程に。

 自室の柔らかなベッドに横たわり、窓の外を見つめながら――総司が胸の内で自問した
問いは、すぐ側の椅子に腰掛けるゆきの笑顔に遮られてしまう。

 「総司さん、あのね。今日は恋人達の日なんですよ」

 そう告げるゆきも、頬をうっすらと紅色に染めたままそわそわしているのがどことなく可笑しかった。

 「ああ、ゆきさんの世界には素敵な日があるんですね」

 ゆっくりと起き上がり笑みを浮かべながら、重ねるゆきの白い手に唇で触れる。

 「あ……」

 「ゆきさんも、僕と似た気持ちに見えてしまうのが嬉しかったから」

 「うん。バレンタインデーって言って、好きな人に贈り物をするんですよ」

 言い置いて、ゆきがベッドサイドのテーブルに置かれた、羊羹に似た甘味が載った皿を手に取った。

 「その……少し恥ずかしいけど、口を開けて下さい」

 スプーンで一さじすくって食べさせてくれたそれは、とろけそうなほどに甘い。

 「チョコレートのプリンなら、総司さんも食べやすいかなって」

 「ふふっ、美味しいですよ。甘味一つではしゃぐなんて小さい時にもなかったから、こんな気持ちは
初めてです」

 ――待て。ゆきさんは先刻、想い人に贈り物をすると言っていなかったか。

 「ゆきさん」

 「はい」

 頬を赤らめながら、総司は消え入りそうな声で尋ねた。

 「もしかして、さっき言っていた贈り物はこのぷりんの事ですか?」

 こくりと頷いたゆきが顔を上げたと同時。

 「じゃあ、ゆきさんにもお裾分けしなければいけませんね」

 小さく開いた口へ、総司はプリンを自分の分のスプーンで一口運んだ。

 みるみるうちに、ゆきの透き通った頬を染めた紅がさらに鮮やかになる。

 「もう、総司さん。せっかくあげたのにまた私が食べてどうするんですか」

 スプーンをテーブル上の皿に戻した後、小さな小さな声で突っ込みを入れたゆきの反応は、
あまりにも可愛らしかった。

 「すみません。けれど、こうして僕とゆきさんが同じ気持ちを共有できるのは、とても幸せです」

 「うん……私も」

 深海を思わせる双眸をじっと見つめていると――感情より先に、鼓動が正直に高鳴るのがわかる。

 思い出されるのは、ゆきと別れて新撰組の戻っていた間の事。あの時も、寂しくても
ゆきへの愛しさを消し去る事など出来なかったから。

 「ふわふわしてこのまま溶けてしまいそうでも、僕はきっとこの愛しさを捨てられないんでしょうね」

 静かに顔を近づけ、ゆきの耳元に唇で触れてささやいた。


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