「望まれ、望み続ける幸せと共に」

 

 眠る望美の手を握り締め、ベッドの傍らに座る敦盛は密やかに祈っていた。

 ――望美が先月贈り物と共にくれた想いの返礼を、ただ伝えたいからこそ願う。どうか、
起きてくれ。

 自室のベッドに身を横たえる望美の唇へ顔を寄せる。敦盛が唇を重ねると、望美は
うっすらと目を開けた。

 「ん……敦盛、さん?」

 「午睡を妨げてすまない。だが、どうしても望美に渡したいものがあるんだ。少しだけ
時間を貸してもらえるだろうか」

 「うん」

 微睡んだまま頷く望美のつややかな髪を、優しく指で梳る。木製のテーブルに置かれた
薄紫色をしたハート型の小さな箱から、星を思わせる金平糖を一つ手に取った。

 小鳥のように小さく開いた唇へ、指を近づける。微かに温かい唇が指に触れた時、
指先が熱くなるのがわかった。

 「美味しい」

 「そうか。その……想い人に先月もらった贈り物の礼は、三倍にして返礼せねばならない
と将臣殿から伺った。どうすれば、あなたは今よりもっと笑っていてくれるのだ」

 何気なく口にした問いに、望美の白い頬が桜が色付くかのように鮮やかに朱に染まってゆく。

 「もう、将臣くんってばいつの間に敦盛さんにそんな事吹き込んだの」

 ――違っていたのか……?

 吹き出しそうになるのを必死にこらえていた望美が、不意に悪戯っぽくささやいてくる。

 「まあ、全く的外れでもないからいいか。敦盛さんが今くれた気持ちだけでも嬉しいですよ。
でも、もっと返したいって思ってくれてるなら、もう少し側に来てもらってもいいですか」

 「ああ」

 ベッドに上がり、添い寝する要領で横になる。身を寄り添わせ、互いの距離が零になった
瞬間――望美の心音がとくんと高鳴るのがわかった。

 ――人の身の幸いを捧げられぬなら、現世に生きるあなたに望まれるものにはなれないとは、
 もう思わない。

 重ねてきた両手に応えるかのように。ゆっくりと額に、頬に、ほのかな吐息をこぼす唇に
口付けを落として。

 「ふふっ。三倍返しどころか、利子がついちゃいましたね」

 「すまない。だがこの穢れた身でも望美と共に生きたいと誓ってもなお、こうしてあなたに
望まれ続けるのは幸いだ。望美が変わらずにこの世界で笑っていてくれるならそれ以上に
望む事など、ないと言うのに」

 望美が敦盛の小指に自分のそれを絡める。そっと目を閉じ、わずかに濡れた唇を
頬に押し当ててきた。

 「うん、私も同じ。こうして目をつむってても敦盛さんを感じられるのはお昼寝から起きた
後も変わらないって実感出来るんだもん。だから、ずっと同じ――」

 無意識に、言の葉の続きを敦盛は唇で塞いでいた。

 ――すまない。その先は私から伝えたいんだ。

 「ごめんなさい」

 「望美が詫びる事はない。ただ、どうしても私が言葉にしたかっただけだ。眠りから覚めても
どうか、私と同じ今にいて欲しい」

 望美は頷くように微笑み、小さく小さく目を閉じる。小指を絡め返し、そっと頬に口付け――
敦盛もその後に従った。


 Back  Next  Home

inserted by FC2 system