「髪遊び」

 

 九郎が違和感に気付いたのは、穏やかな午睡の折だった。いつも頭の高い位置で
結んだ髪がだらんと垂れ下がり、どこか落ち着かない。

 ゆっくりと目を開け、自室の壁に寄り掛かって座った体勢から身を起こす。手近にあった
姿見に己が姿を映した時、九郎の背中を嫌な汗が伝っていった。なぜいつの間に
髪が三つ編みになっている。

 ――何だ、このどう見ても女人にしか見えない髪形は。俺はいつ敵襲を受けた。

 源氏を捨てたとて、日々鍛錬は怠っていない。そんな自分に全く気配を気取られぬ
手練に、望美の世界で九郎には今一人だけ心当たりがあった。

 「望美、お前かぁぁっ!」

 鬨の声を思わせる大音声が、昼下がりの有川家に響き渡った。

 

 「全く、お前は悪戯が過ぎるぞ」

 「ごめんなさい、九郎さん」

 和室で正座したまま九郎と向かい合っていた望美が、しゅんと力なくうなだれる。思わぬ
襲撃を受けた九郎の髪は、すでに元に戻っていた。

 「今日は九郎さんの誕生日だから、つい出来心で」

 「菓子をやらないと悪戯される日はもう過ぎただろう。だが俺を喜ばせたかっただけで、
本当に悪気はなかったんだな?」

 望美が膝上に置いた手で握り拳を作り、無言で首肯した。

 「馬鹿……ならばしばらく、じっとしていろ」

 かすかに頬を紅く染めつつ、ズボンのポケットから揃いの瑠璃色のリボンを取り出す。
望美の後ろへ回り込むと、絹を思わせるつややかな髪を一つ結びに慣れた手付きで結い上げた。

 「これでおあいこだ。さて、今日はどこへ行く?」

 にっと力強く、望美に笑みを返して。


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