「その髪に触れられるのは」

 

 夜も更けた頃に、褥でこそりと動く小さな小さな衣擦れの気配。寄り添っていたヒノエは、
ゆっくりと目を覚ました。望美のつややかな髪に、そっと指を滑らせる。

 「捕まえた」

 「う……ヒノエくんを起こしちゃった」

 「こんな夜更けに羽ばたく天女は、オレを誘っているのかい?」

 髪を梳る手に力を込め、胸の中へ誘った。高鳴る胸の鼓動が、心地よく伝わってくる。

 「もう、そんな意地悪するなら、誕生日の贈り物はあげないよ」

 嫌がるのではなく、むしろ悪戯っぽい声音。なるほど、以前聞いた生まれた日を祝う
望美の世界の習慣か。

 「一本取られたね。それで、奥方は何をくれるのかな」

 促されるように、望美は胸元に提げていた二枚の葉が飾り付けられた首飾りを
差し出してきた。

 ナギの葉。この熊野においては、夫婦和合の護符とされている。

 「これでお揃いだね。ヒノエくん、誕生日おめでとう」

 くすりと微笑む望美の白い首筋には、同じナギの葉がもう一つ。

 「ナギの葉は簡単に引き裂かれないから、絶対離れないように、か。
ありがとな、望美」

 にやりと微笑い、さらに言葉を継いだ。

 「このナギの葉、お前の手でオレに掛けてくれよ」

 「うん」

 すべらかな手が柔らかく髪に触れ――揃いの首飾りが、胸元に提げられる。
それと同時に、ヒノエは望美の唇へ自分の唇を重ねていた。

 ――天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理の枝とならんと。何度だって
誓ってやるよ、 お前を離さないって。

 熱が残る唇を離し、望美を今一度優しく抱き締める。

 「夜明けが来ても、その先も一緒にどこまでも行こう。オレの奥方」

 互いの小指を絡めて、ヒノエは密やかにささやいた。


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