「星の雨が降る夜に」

 

 透き通った漆黒の夜空に、煌めく星が驟雨のように降り注ぐ。

 有川家の屋根に上がり、敦盛は望美と星の雨を眺めていた。

 かつて伯父である清盛が流れ星は凶事と言っていたのを聞いて、幼い自分はそれを
無意識に怖れていた覚えがある。けれど、今は違うと気付いていた。

 ――望美がくれた光に、似ているからなのだろうか。

 惜しむ事なく降り続け自分を照らす、眩い輝き。

 「美しいな」

 「うん。こうやって流れ星を見てると、清盛が言ってた言葉を思い出します。
「絶望も希望も、そなたの手にある」って」

 「そうか……」

 敦盛はふっと息をつき、遠い夜空を見上げた。

 龍脈の乱れが完全に正されてから、彷徨う伯父とこの鎌倉で逢う事はなくなった。

 ――それでも、伯父上が私達を見ておられる気がするのは、思い過ごしではないのだろうな。

 「そうだな。私達は希望を選び取った。この先は望美がいつまでも側で笑っていてくれると
信じている」

 愛しげに髪を撫で、敦盛は面映そうに笑みを浮かべていた。

 「敦盛さん?」

 「いや……「希望」などと言う言葉を、怨霊として蘇ってからは久しく口にするのを
忘れていたと思って。 話を切ってすまなかった。大切なものを思い出させてくれて
ありがとう、望美」

 優しく瞼に口付けて、細い身体を抱き締める。

 薄いピンクのワンピース越しに感じる心音は、心地よく脈打っていた。

 「私一人だけだったら、とっくに茶吉尼天に心を食べられて終わりだった。清盛や
皆、それに敦盛さんが助けてくれたから私は今もここにいられるんだよ。
だから、お礼を言うのは私の方」

 望美は腕に力を込め、言葉を継いだ。

 「私が笑う時には、敦盛さんと一緒がいい」

 「ああ」

 望美を抱き締め返し、そっと唇を重ねる。小さく吐息をこぼす唇が、耳に触れてきた。

 「敦盛さん、誕生日おめでとう」

 唇から紡がれる鈴を鳴らしたような声に、胸の深い深い所が、甘く痺れるのがわかった。

 ――そうか、こちらでは生まれた日を祝うのだったな。

 「ありがとう。この世界では流れ落ちた星に三度願えば願いが叶うのだろう?
ならば、あなたと笑い合って「生きる」幸せが失われぬように」

 望美の白い頬に両手を添え、唇を重ねる。

 願い事と同じ数だけ胸の内で祈り、同じ数だけ互いに口付けを交わす。

 しっとりと濡れた唇はかすかに震え――翠玉の瞳から、小さな涙がこぼれ落ちていた。

 かつて鶴岡八幡宮で、辛くても望美との記憶なら忘れたくないと伝えた覚えがある。

 ――その想いは今も変わらない。望美と紡ぐ記憶なら、褪せる事なく愛しいと思えるから。

 希う。その幸せを守れる自分でありたいと。

 唇を離し、髪を、背中をゆっくりと撫ぜる。

 「すまない。苦しかったのか……?」

 「ううん、違うの。ちゃんと流れ星に敦盛さんの願いが伝わったんだなあって思ったから、
嬉しくて」

 涙の雫を残して微笑む望美は、星明かりに照らされて限りなく眩しかった。

 と、不意に風が吹いた。

 

 “愛する者を置いて勝手に消えるなど、許さぬぞ?”

 

 どこかからかうようなその声は、風音に交じり確かに聴こえていた。

 ――わかっております、伯父上。

 胸の内で、静かに呟く。

 「ふふっ、あの人も見てたんだ。私は、敦盛さんが私を想ってくれる意志を信じます」

 指を絡める望美に応えるように、敦盛は小指を絡めて頷いた。


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