「夜半の契り」

 

 褥で寄り添って眠る望美の、温かな手が触れる感触に敦盛は目を覚ました。

 「敦盛さん、苦しくないですか?」

 穏やかな声で紡がれる問いを、幾度聞いただろう。それが怨霊の発作を指すと知っていたから。

 敦盛は望美の手を握り返して応えた。かすかに敦盛の右目が紅玉のような赤に染まっていたが、
望美の手の熱を感じるうちに、元の紫色に戻っている。

 「何ともない、いつもすまない」

 「よかった……」

 と、望美にそっと抱き締められる。甘い桜の香が、ほのかに薫った。
望美が、頬を染め敦盛の胸に顔を埋める。

「敦盛さん、誕生日に何か欲しいものはありませんか?」

 望美の世界では、生まれた日を祝うと聞いた事があった。

 本当の命なき自分には、生誕を寿ぐなど忘れかけていたけれど。
望美からの祝いの言葉は、さながら胸に火が灯るかのように。

 敦盛は、優しく望美を抱き締めた。

 「いや、何もいらない。望美がいれば」

 望美が微笑んで言葉を紡ぐ。

 「なら、少し目を閉じて下さい」

 言われるがままに敦盛が目を閉じた時には、額に柔らかな唇の感触。

 敦盛が目を開けると、花よりも美しい望美の笑顔があった。そっと、唇を重ねて返した。

 濡れた甘い唇から伝わる熱が、敦盛の魂に心地よく伝わってくる。かすかに呻いて唇を離すと、
望美が心配そうに眉を寄せた。

 「敦盛さん、やっぱり身体が」

 首を横に振り、敦盛は望美を強く抱き締めた。

 「本当に何でもないんだ。気を使わせてすまない」

 望美が神子ではなくなっても。八尺瓊勾玉の欠片がなくても。
かつてのような狂おしい程の血の渇きは、望美への愛しさで満たされていたから。

 安堵したように、涙を流す望美。

 「よかった……厳島での戦いの時も思ったの。敦盛さんが消えるくらいなら、私の血を――」

 望美が言い終わるよりも前に。敦盛は望美の唇を自らの唇で塞いでいた。
翠玉色の双眸から流れる涙を、敦盛が静かに唇で拭う。

 「それ以上言わないでくれ。私は、もうどこにも行かないから」

 頷いて、望美に抱き寄せられた弾みで、望美の身体が褥に倒れ伏す。

 ――また、この身は愛執の罪を重ねるのだろうな。

 白い首筋へ、そっと敦盛は口付けを落とした。


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